McGuffin(マクガフィン)

月の前半で100万円以上稼ぐことも。プロマジシャンR.Y.Oさんの仕事観。

現在日本の職種は28,785種類あるといわれており、10年後にその約半数はロボットとAIによって無くなると言われている。今の自分の仕事がなくなってしまうとしたら、何をするのだろうか。
会社員とは違う働き方をするミレニアル世代へフォーカスし、リアルな時間やお金、価値観について語ってもらうTIME&MONEYシリーズ。

今回は、アマチュアで14歳の頃からマジックをはじめ、18歳でプロ入りをしたマジシャンR.Y.Oさんにインタビューした。26歳という若さではあるが、新宿のマジックバーの店長を務めている。

トランプ1つでここまで人を感動させられるのか

‐そもそものマジックというものをやろうと思ったきっかけはなんだったんですか?

その当時、前田知洋さんというマジシャンが流行っていました。その時テレビで、カードに1枚サインしてそれを真ん中にさしたら一番上にあがってくるというのをみて凄い衝撃を受けたんです。トランプひとつでここまで人を感動させられるのか、と。それで、やってみたいなと思って、始めてみたのがきっかけですね。

‐そこから趣味で始まったんですね。でも趣味では収まらなかった?

ある程度マジックを覚えた時にマジシャンのセロさんがでてきました。
看板からハンバーガーを出すマジックや壁から物が出たり入ったりしているのがあまりにも衝撃的で、魔法使いなんじゃないかと思いました。なんだこの夢ある職業は、もっと本格的にやっていきたい、と思ってそこからどんどん研究していきました。マジックをずっとやっていくうちに、僕勉強やらなくなったんですよ。もう勉強必要ねーやって。

‐勉強やらなくなっちゃったんですか?

テスト中にもトランプいじって、テスト0点みたいな生徒でした。勉強するくらいならマジックの研究をしたかったんですよね。中高一貫校だったので、高校受験とかは気にせず6年間を過ごせたのはラッキーでした。

‐でもそんなに勉強してなかったなら卒業できないですよね?

そうなんです(笑)高校3年の時に進路相談で先生に「これからどうしたい?大学とか行きたいの?」ってきかれて。

‐その時にプロになることを考えたんですか?

マジックの大学が韓国にあったのは知ってたんですけど、わざわざ海外まで行って勉強するほどでもないと思ってました。先生に「お前マジックしかやってないし、それをプロでやっていくの?」って聞かれても「どうやってプロになるんでしょうね?」なんて生意気な口叩いてましたよ。

‐どうやって卒業したんですか?

先生が「ここだけの話、お前が今から単位をとれていない先生のところに行って、マジック見せて来てそれでもし、タネがばれなかったら単位だしてやる。」って言ってくれたんです。

‐かなり理解のある先生ですね。

6年間見てきてくれていた先生たちは、僕がどれだけマジックを好きかわかってくれていました。「夢を応援するのも先生の役目だから」って言って。ただ、さすがにそれが通用しない先生もいたのでその科目だけは必死に勉強しましたけどね(笑)

5つの仕事を掛け持ち。6日間徹夜するのは当たり前


‐とりあえず卒業はできたけど、働かないといけないですよね?

高校の時から出入りしてた東急ハンズのマジック道具売り場が思いつきました。
簡単なマジックを子供たちに見せたりする実演販売員がいて、どうにか働かせてもらえないかってお願いして入れてもらいました。なので18歳でプロ入りですね。

‐東急ハンズでの実演販売だけやっていたんですか?

いや、5つの仕事を掛け持ちしてました。東急ハンズと、マジックバーを2つとコンビニとサパークラブ。毎日寝れない生活が続いて、6日間徹夜するとかは当たり前でしたね。

‐5つも掛け持ちですか?

マジックバーのうち1つはその時ついたマジシャンの師匠に任されたお店なんですけど、お客さんがついてない状態だったのでマイナス経費でした。東急ハンズは初任給にもいかないくらいだったので、コンビニで深夜バイトをしてなんとか補っていました。

‐下積み時代の時間の使い方ってどうなってましたか?

6日間お風呂に入れないときとかありましたね。

‐お風呂に入れない?

東急ハンズに出勤するのが8時~19時、そのあとに師匠のマジックバーに行って、通常だったら朝5時までなんですけど、早閉めだった場合は、0時までやって終電で家に戻ります。そこからコンビニで朝7時までバイトして、また東急ハンズに出社して、というのを繰り返していました。サパークラブと新宿のマジックバーと師匠のマジックバーが日によって入れ替わる感じですね。それでも初任給いかないくらいの稼ぎでしたね。

‐普通の会社員じゃ考えられないですね。

狂ったように働いていました(笑)

‐サパークラブっていうのは?

男版キャバクラですかね、お客様は男女半々くらいです。僕たち従業員が盛りあげて、皆様に楽しんでもらうようなお店です。ホストさんやキャバ嬢さんが仕事帰りに使うようなお店、つまり飲んだくれのお店ですね。

‐マジックに関係なさそうなんですけど……。

当時mixiが流行っていたときにマジシャンのオフ会に参加したんです。その時に知り合ったマジシャンの人に新宿のマジックバーで働かないかって言われて、給料もよさそうだったし働くことにしたんです。そしたらそのお店のオーナーに「お前はしゃべりが面白くないから水商売の店で1年修業してこい」っていわれていったのがサパークラブでした。

マジックをさせてもらえない下積み時代

‐R.Y.Oさんの下積みが始まるわけですね。

そうですね。下積みは2~3年くらいですね。僕はこの期間を地獄と呼んでいます(笑)

‐地獄……。

僕はもともと内気な性格でマンガやアニメ、ゲームが好きなオタクでした。今も根は変わらないんですけど。

‐内気にはみえないです……。

サパークラブでの修行の成果ですね(笑)

‐どんな地獄が待っていたんでしょうか

19歳でオタクだった僕が飛び込んだ世界は想像を超えていました。サパークラブのお客様は90%ヤクザでしたね。「マジシャンです、派遣できました!」と言っても「マジックなんてどうでもいいから酒のめよ」とか言われて。19歳だった僕はお酒が飲めなかったので、サパークラブのオーナー(太田城(オオタクニ)さん 以下 太田さん)が断ってくれるんですけど、お客さんは「じゃあパンツ脱げよ」と言うような、自分の中の常識が全く通用しない世界でしたね。

太田さんからは「喋りが下手、灰皿変えろ、接客がなってない」と超スパルタで鍛えられていました。それからすぐに20歳になって、半年間酒を飲み続けました。「テキーラ3本一気に飲んだら16万円チップでやるよ」などお客様からのお題を頂いたりして、とにかく飲む、そんな毎日でしたね。

始めたころは毎日泣きながら帰ってたりしましたよ……。酔っぱらって泣き上戸になっちゃって「何で俺こんなとこで働いてんだー!」とか言いながらお店の中で暴れてました。その後は太田さんにボコボコにされて反省したりしてたんですけどね(笑)

‐自分が同じ立場だったらもう無理だ、って諦めてしまいそうです。

太田さんに、「お前こんなとこで辞めたら、どこに行っても成功しねえよ!」って言われて、「絶対見返してやる」っていう意地でやっていました。「ニートだって、オタクだってちゃんとやればできるってことを全国に証明してやる!」みたいな。

‐オタク代表みたいになっていますね(笑)他の仕事はどうだったんですか?

サパークラブの仕事は体力的にも精神的にも辛くて、数か月後には新宿のマジックバーとサパークラブの2つ以外はやめざるを得ませんでした。

‐半年間はマジックができない状態だったんですね。

半年間は酒を飲み続けているだけでしたね。名前を覚えてもらうにはどうしたらいいんだろうって考えました。そのときに髪の毛の色を変えようと思いついたんです。

‐髪の毛の色が青いのはそこからなんですね。

それまで興味なんてもって貰えたことがなかったのに、髪の毛の色を変えただけで覚えてもらえるようになりました。そこから「お前普段なにやってんの?」と会話が弾んでやっとマジックを見てもらえるようになったんです。

マジックができるだけじゃ全く通用しない世界


‐高校生の時に想像していた世界とのギャップってありましたか?

ギャップしかなかったです。マジシャンがどういう職業かわからずに飛び込んでみて、技術があっても稼げないんだ、ということを知りました。サパークラブで半年間マジックができない日々を過ごして学んだことは、マジシャンって、マジックができるだけじゃ駄目で、喋りが絶対に必要なんだっていうことです。

‐お客様がついてくれないと技術があっても意味がない。

「お客様・先輩に言われたことの返事は2つしかない。YESかハイだ。」これは太田さんに言われて今も覚えている言葉です。

‐お客様の言うことは絶対、ですね(笑)

太田さんがお客様の作り方、気に入られ方など教えてくれました。僕がサパークラブで過ごした日々は確かに辛かったですけど、とにかく濃くて、僕を成長させてくれました。厳しく育ててくれた太田さんは今でも可愛がってくれていて、本当に感謝してます。

月の前半で100万円以上稼ぐことも


‐時間の使い方について教えてください。オフの日は何をしていますか?

オフの日はまったくマジックのこと考えないですね。昼過ぎに起きて、買い物して帰ってきたらずっとゲームしています(笑)

‐オフって月に何日くらいあるんですか?

決まってないですね、まったく休みがない日もあれば、月の半分が休みの時もあります。

‐月の半分が休み?

月の前半で結構な金額を稼げてしまったときとかは、後半ゆっくりします。会社員のボーナス以上、100~200万位ですかね。

‐マジックの練習とかしないんですか?

普段はほとんどしないですね。ギターと同じです。基本のコード進行を覚えてしまえば、新しい曲をきいてもなんとなくわかりますよね。マジックの特番とかをちょっと見れば大体ながれがわかります。ただ、本当に新しいマジックを作り出すときはかなり練習しますね。15時間くらいマジック場に籠って仲間たちとリハーサルします。

‐オンの日はどんなスケジュールですか?

日によって全然違うのですが最近あったのは、地方出張のときのスケジュールなんですけど朝5時に起きて地方移動、リハーサル本番が終わったら夕方から会食、そのあと銀座でマジックショーをして新宿のマジックパーで朝5時まで働いて、というのを6日間やりました。

‐寝てないですね

レッドブルと眠眠打破があればなんとかなります(笑)

実力とそれまでの苦労があれば100%稼げる


‐同業でR.Y.Oさんの同世代くらいの人の平均年収ってどのくらいですか?

ピンキリだと思いますね。僕はたまたまラッキーで稼げてますが、そうじゃない人もたくさんいます。初任給以下の人もいれば、1回のギャラが200万円の人とかいます。

‐そんなに差があるんですね。

夢のある職業だと思います。実力主義なので、実力とそれまでの苦労があれば100%稼げますね。出世の道はいくらでもあります。

‐実力のある人だと年収ってどのくらいになりそうですか?

1千万円は余裕でいけると思いますが、そのお金で会社を作って年収1億円とかにしている先輩とかもいますよ。

‐ちなみに、R.Y.Oさんの場合どんな使い方をされているのか教えてください。

80%はマジック道具です!

‐マジック道具って、トランプとか凄くシンプルなイメージがあるのですが……

そうでもないんですよ、東急ハンズにあるマジック道具をそのまま使うわけではないので。ゼロから作り出したり、それを発注したりすると結構な金額になりますね。80%はマジック道具、15%は趣味、5%は後輩に使ってます。

叶えた夢を、あとの人生でどれだけ充実して楽しめるか


‐今後まだまだ長い人生で、この仕事をいつまで続けていきたいなあって思っていますか?

死ぬまで!

‐死ぬまでですか!

死ぬまでマジックには関わりたいですね。現場でマジックやるっていうのは無理かもしれないですが、マジックに関する仕事は、いくらでも作れると思っています。新しいマジックのアイデアを考えたり、今までの経験談を話したり技術のセミナーも開いたり。僕は「マジシャンになりたい」というのは夢をもう叶えたので、あとはその夢をどれだけ充実して楽しめるかだと思っています。

マジックは芸術としてこれからも残っていく


‐今後未来はロボットとかAIが発達してくると思うのですが今の職業はどんな影響をうけると思いますか。

プロジェクションマッピングのマジックが流行ってきています。それを見ると映像のクオリティが高すぎて、突然出てきた鳩が本物なのか映像なのかよくわからなくなるんです。何が不思議で何がマジックなのか、境目がなくなる日が来るんじゃないかなと、僕は思っています。人が浮くとか可能になりつつあるじゃないですか。昔マジシャンが死ぬほど研究した「浮く」という素材が、不思議じゃなくなってきてますよね。

‐技術が発達しすぎて、不思議だったことがそうではなくなってきていますね。

そうなると、時代が進むにつれて、昔の指先の技術ならではのマジックが流行ると思います。生身の人間がその技術を再現するからすごいんだと。日本には古来から口伝で受け継がれてきた伝統的な奇術の和妻(わづま)というのがあるんです。無形文化財にも指定されていて、美しいんですよね。マジックは芸術として楽しまれていくんじゃないかなと思います。

「みんなそれが、本当にやりたかった職業なのかな?」


‐会社員として働く同年代の人たちをみていて思うことはありますか?

経済がちゃんと潤っている状態で、そのお金をもって会社員の方たちがマジックを見にきてくれるからこそ僕たちの仕事が成り立っています。なので会社員を否定するつもりはありません。ただ一方で、もったいないなと思うことがあります。

‐もったいない?

「みんなそれが、本当にやりたかった職業なのかな?」と思うんです。小さいころからの夢とか自分のやりたいこととか、夢を叶えるための可能性を全部試したのかな、と。色々やってみて、それでも今のやってる仕事しかない、思ってやっているならいいと思うんですけど、みんなそこまでできてないんじゃないかなって感じるんです。

マジシャンのふじいあきらさんは、会社員をやっていたけど、途中でやめてマジシャンになりました。夢を叶えるのはいつでもできるんですよね。でもTime is Moneyなんです。若いうちに動ける期間をどう使うかすごい大事だと思います。後先の事を考えることも大事だけど、人生一度きりなんだから、考えずに動く事も大事だと、僕は思います。

‐最後に何か一言メッセージなどあれば

マジシャンの言っている事、9割嘘で1割勢いです。この記事の内容を信じるも信じないも、あなた次第です。っていうところですかね(笑)。

出典:
日本における職業の数| レファレンス協同データベース
http://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000117768

ロボット化で日本の仕事の半分がなくなるとの推計、その100の職種とは | THE PAGE
https://thepage.jp/detail/20151208-00000004-wordleaf

<CREDIT>
プロマジシャンR.Y.O
https://www.facebook.com/R.Y.Omagician/
マジックバークオーレ
http://cuore.cx/
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