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CULTURE VIDEO MAGAZINE FOR YOUTH

「みんなの溜まり場を作りたかった」。飲食未経験、
アパレル一筋だった2人がピザ屋をオープン
MY SHOP STORY #003

Prologue
自分の好きなことを仕事にできるのは理想的。やりたいことが仕事ならば、
多少の困難でも楽しんで乗り越えられると思う。と同時に、趣味と共通した
仕事を見つけ出すのは難しかったりもする。そんな時には、自分で独立する
という選択肢があることも頭の隅に入れておきたい。もし、ひとりでお店を
開くのがキツければ、仲間たちと一緒に立ち上げることだってできるんだ。
 
 
世田谷区三軒茶屋にあるピザ&バー“HEYDAY”。

ここはオリジナルのピザと、アメリカのクラフトビールを中心とした豊富なお酒を味わえる、リラックスした空間が魅力のお店だ。お店がオープンしたのは、昨年5月。店主であるイッセイさんとユウゾウさんはともにアパレルで
働いていた経歴を持つ。未経験から異業種へと足を踏み込み出店するまで、
どんな道を歩んで来たのか? 代表してイッセイさんに話を伺った。
 
 

前職のスキルは今も活きています

—もともとアパレル職に携わっていたそうですね。
はい。大学を卒業してから、ずっとアパレルの仕事をやっていました。はじめは裏原宿系のショップの販売員で正社員として2年間勤めましたが、転職をしてアパレルブランドの本社でウェブの仕事を3年間やっていました。

—なぜ販売員からウェブのお仕事に転職をされたんですか?
具体的なスキルを身につけたかったんですよ。最初は趣味程度で休みの日にウェブ関係の知識を勉強しようとしていたんですけど、結局やらないなって思っちゃって、もう仕事としてしっかりやろうと決めました。でも、コピー&ペーストさえもできないくらいの未経験だったんですよ。そこから勉強をして、HTMLを組めるくらいになりました。

—同じアパレル業界とは言え、接客とパソコンの仕事はまったく違いますよね。
そうですね。でも、アプローチ先が実店舗からウェブストアになっただけなんですよ。どういう商品をどこに配置するとか、どういうメルマガを送ればお客さんが反応するかとか、実店舗と販売促進の捉え方は似ているので、そこまで洋服を売るという考え方は変わらなかったです。

—未経験からウェブの勉強をしてみていかがでしたか?
やってよかったですね。前職のスキルは今も活きています。今のお店のウェブサイトを自分で作りましたし、アドビのイラストレーターやフォトショップもやっていて、このお店で販売しているオリジナルアパレルも自分でデザインをしています。
 
 

「社会で生き抜いて行くために働くのか、
自分のやりたいことを仕事にしたいのか。どっちなの?」

—いつぐらいから独立することを考えはじめましたか?
ウェブの仕事をして3年経ったくらいですね。いろいろあって転職をしようかなって思うようになったんですよ。だけど、どこに転職しようか悩んじゃいまして。それで、独立している先輩に相談したら、「結局何をやりたいの? 社会で生き抜いて行くために働くのか、自分のやりたいことを仕事にしたいのか。どっちなの?」って言われまして。それでユウゾウと話して、一緒にお店を立ち上げることにしました。ユウゾウもアパレル関係の仕事をしていたので、同じく未経験からのスタートです。

—なぜ飲食店を選んだのですか?
みんなの溜まり場を作りたかったんです。いろいろと考えてみたら、服は仲間内にしても好みや系統がある訳で、アパレルショップにしちゃうと同じ系統の友達しか集まりにくくなっちゃいます。でも、ビールはみんな好きだし、ピザもみんな好き。だから仲のいいヤツはみんな呼べると思ったんです。自分たちは何をしている時が1番楽しいかというと、友達と飲んでいる時なんです。だから飲食店にしました。

—ピザを看板メニューにした理由とは?
大前提として、飲食店でもオリジナルのアパレルを展開したかったんです。やっぱり僕たち、カッコいいことをやりたかったんですよ。もつ煮もカッコいいし、おでんだってカッコいいと思います。でも、もっと分かりやすくカッコいいものをやりたくて。2人で話し合った結果、ハンバーガーかピザにたどり着きました。でも、ハンバーガーってひとりで食べることが多いけど、ピザは大人数でシェアして食べることが多いじゃないですか? あと、ピザはアイコニックな食べ物だから、洋服のデザインとしても使われています。だからピザにしたっていうのが理由ですね。


—前職の会社を辞めて、いちから修行をすることに対して不安はありませんでしたか?
もちろんありました。やっぱり怖かったですけど、実際に独立している先輩たちからの話を聞いてポジティブな気持ちに切り替えていました。辞めて飲食で独立したいということを会社の人たちに伝えたら、頑張れって背中を押してくれました。現に、今も付き合いがあって食べに来てくれていますし、お互いの仕事を協力し合ったり、相談に乗ってもらったりもしています。周りの仲間たちも応援してくれたから不安を解消できました。
 
 

修行よりも資金を集めることが1番苦労しました

—これまで飲食の経験は?
学生の時に居酒屋のアルバイトをしていたくらいですね。ピザに関しては未経験で、2人ともゼロからのスタートでした。

—修業先はどうやって選びましたか?
本当に右も左も分からなかったし、職場に入ってみないと分からないから、そこが違ったら辞めればいいやって考えていて、求人サイトに出ていたピザ屋を選びました。結局、そこで独立するまでの3年弱働きましたよ。

—未経験での修行はいかがでしたか?
前職のウェブも未経験からのスタートだったし、勉強することは苦じゃなかったです。だけど、前職ではある程度、上の役職にまで就いていたのに、アルバイトになるというのはちょっと精神的に辛かったという部分はあります。

—やっぱり、その時期はキツかったんですね。
その時期をワープして今がある気分ですね。そのくらい忙しくて修行時代の記憶がないです。料理の勉強をしなきゃだし、資金作りをしなきゃだし。修業先のピザ屋だけじゃ資金が貯まらないから、掛け持ちで別の仕事をしていて、午後から朝まで働いていたこともあるので完全にオーバーワークでした。
掛け持ち先はいろいろ変えていて、居酒屋で働いたり、バーで働いたり。その経験は、ピザ以外でお酒の勉強になり今に役立っています。あと、酒屋でも働いていたのはよかったです。配達に行った時、お金を払わずともたくさんのお店のメニューや内装をリサーチとして見ることができましたからね。それでいろんなお店の店主と仲良くなって、いろいろと話を聞くことができました。

—普通なら修行中に挫折しそうになったり、心が折れそうになったりしそうです。
2人で決めたことだったので、挫折なんてしちゃったらダサいじゃないですか? だから引くに引けない状況でしたし、もう仕事を辞めちゃっていたので、やるしかないって感じでしたね。

—資金はいくらくらい準備しましたか?
自己資本で500万円準備して、残りは日本政策金融公庫から融資を受けました。修行よりも資金を集めることが1番苦労しましたね。資金が貯まり次第、お店を出そうとしていました。

—金融公庫の融資に関する書類を書くのが大変という話を聞きました。
本当は自分でやるのが1番いいんですけど、修行とかで本当に忙しかったので、そこは税理士に全部お願いしました。

—物件はいつから探しはじめましたか? また、なぜ三軒茶屋を選んだのでしょうか?
修行先を辞める1年くらい前から探すようにしていました。最初は学芸大学駅や都立大学駅の付近で探していました。それは正直あんまり深い意味はなくて、渋谷と原宿から気軽に行ける距離だし、ローカル感がある場所なので、その辺りで見ていました。でも、そのエリアにいい物件がなくて、範囲を広げて探してみることに。そしたら、三茶のココが空いていたので決めました。
 
 

スケートカルチャーを随所に落とし込んで店づくりに反映しています

—お店の随所にスケボーなど、アメリカ西海岸のカルチャーが垣間見えます。
海っぽい雰囲気をイメージして開放的な印象にしました。あと、僕らはスケートボードが好きなので、ドアノブをスケートボードのトラックにしていたり、70年代の西海岸でスケートランプとして使われていたボウル(※スケボーをするために水を抜いた家庭用プール)をイメージしたタイルを使ったりと、スケートカルチャーを随所に落とし込んで店づくりに反映しています。本当は、カウンターにプールコーピング(※ボウルの縁)をつけようともしましたけど、ちょっと邪魔になるってことでやめときました(笑)。あと、居抜きでロフトスペースがあったので、そこをテーブル席にしています。

—準備期間はどれくらい掛かりましたか?
2ヶ月くらいです。本当は、家賃が発生しちゃっているから1ヶ月でオープンしたかったんですけど、内装が終わらなくて。自分たちも壁を塗るのを手伝って、大工さんと一緒に頑張って仕上げました。キッチンも使えない状況だったので、お店が完成してからメニュー作りを開始。ある程度は修行中にメニューは考えていましたが、本格的に料理を作る場所がなかったからできませんでしたね。ちょっと家で作ってみたり、BBQをやった時に試作メニューを食べてもらったりしていました。

—お店のコンセプトを教えてください。
“都会のビーチハウス”です。開放的な空間でのんびりしてもらいたくて。

—ピザのこだわりは?
ベースはナポリですけど、その枠にとらわれず具材を多めにしてアメリカンっぽい雰囲気にしています。割とミクスチャーな感じです。先日はお店とアパレルブランドでコラボレーションをして、特別メニューを作りました。


—ナポリとアメリカのピザで、明確な違いってあるんですか?
いろいろとありますけど、簡単に言えばナポリは釜で焼いて、アメリカはオーブンで焼くのが大きな違いですね。

—お酒もたくさん揃っていますよね。
そうですね。ビールはアメリカンクラフトビールを幅広く揃えていてオススメです。カクテルもかなり充実させていて、普通のピザ屋には置いてないであろうプレミアムジンとかプレミアムテキーラもあります。

 
 

2人とも好きなものが似ているのもありますから意見の食い違いはないです。

—オープンから1年経っていかがでしょう?
良くも悪くもギャップはありましたね。具体的に例を挙げるとしたら、イメージしていた客層が違った。三茶って、路線の関係で原宿とか表参道のサロンで働いているような美容師とか役者が多いから、そういった客層になると思っていました。でも、実際はそんなことなくて、ローカルの人たちが多いです。この場所が地元でずっと住んでいるような人が多くて、年齢層も少し高めでしたね。それは悪いことじゃなくていいことです。あとは、アパレルの友達とか、スケーターやスノーボーダーたちが集まって来ます。

—オープン前にやっておけばよかったと後悔していることはありますか?
特にないですけど、あえて言うならばD.I.Y.ができるようになっていればよかったってくらいですね。実際に働きはじめてから気づく、お店の不便さがあるんですよ。ここがもう少し広ければ動きやすいとか、これがもっと引っ込んでいればいいのにとか。それを自分たちで直せるならお金も掛からないし、理想通りになりますからね。

—独立の魅力は?
自分の好きにできることです。すべて自分に返ってくるし、考えなきゃいけないことがたくさんあって大変ですけど。上司のハンコがいらないのがいいですね。

—2人でやっていると、ぶつかり合うこともあったり?
ないですね。何かを決める際は、ある程度の形にしてから話をして、最終的にどうするか2人で話し合って決めています。2人とも好きなものが似ているのもありますから意見の食い違いはないですね。あと、役割分担がしっかりできています。お店の営業以外だと、デザインやPRを僕がしていて、ユウゾウが内部的な事務作業とかをやっています。それがうまくいっているコツかもしれないですね。

—今後の目標はありますか?
将来的には、このお店をやりつつ別のお店も出店したいですね。移動販売もいいと思うし、まったく違う業態とかでもおもしろそう。

—では、独立を目指している人に助言をお願いします。
ベストタイミングってないと思うんですよね。これが整ったらやろうって考えていたとすると、その準備ができても別の問題が出てくるんですよ。だから、パーフェクトな状態って存在しないはずなんです。だったら、見切り発車でもいいかなって思います。少しでもいけると思ったタイミングがベストなのかもしれないですよね。

—独立して、変化したことはありますか?
自分たちでお店を持ってから、いろんな仲間が増えました。カルチャーを打ち出した飲食店ということもあって、その人脈が広くなりましたよ。お店に立って自分が好きなものを発信できると、同じ趣味を持った人たちが集まって来てくれて。でも、その逆もあって、まったく好みが違う人とも出会うことができます。だから、本当にさまざまな出会いが多くなったのは独立して1番良かったことですね。
 
 

 
 
Epilogue

前職でも好きなことを仕事にしていた2人。アパレルから飲食のフィールドへと移ったが、やりたいことをやるというスタンスは変わらない。それは、オリジナルアパレルやブランドとのコラボレーションといった形にして、飲食以外でも表現しているところから見て取れる。そして、溜まり場を作りたかったという想いは無事に実現し、今ではさまざまな職種の人たちがカウンター席に肩を並べるアットホームな場所が完成した。オープンしてから、まだ1年。これからたくさんの壁に直面することだろう。しかし、ひとりでは抱えきれない不安も、本当に信頼できる仲間と一緒なら乗り越えていけるはずだ。

<CREDIT>
■イッセイ
1986年、東京都出身。2017年に、友人のユウゾウさんとともに“HEYDAY”をオープン。大学生の頃は軽音楽部に所属していた音楽好き。趣味はスケートボードで、休日にはパークへと足を運ぶ。

■HEYDAY
住:東京都世田谷区太子堂1-12-29 ダイアパレス三軒茶屋103
☎:03-3412-4550
営:11:30〜24:00
定休日:不定休

Instagram:@heyday.beer
ブランドHP:http://heyday-beer.com

PHOTO:TAKAHIRO KIKUCHI
TEXT:SHOGO KOMATSU