【競輪選手 蓑田真璃】「できない」を克服したい。終わりがないから続けたい。
現在日本の職種は28,785種類あるといわれており、10年後にその約半数はロボットとAIによって無くなると言われている。今の自分の仕事がなくなってしまうとしたら、何をするのだろうか。会社員とは違う働き方をするミレニアル世代へフォーカスし、リアルな時間やお金、価値観について語ってもらうTIME&MONEYシリーズ。
競輪選手として活躍する蓑田真璃(ミノダマリ)さんにお話しを伺った。
きっかけはトライアスロン
-なぜ競輪選手になろうとおもったんですか?
きっかけは、大学で入っていたトライアスロンサークルです。トライアスロンは1回のレースで水泳、自転車、マラソンの3種目を順番に進めていく競技なんですけど、その中で自転車が一番得意でした。先輩に「競輪やってみたら?」と言ってもらったのをきっかけに、自分でネットでいろいろ調べるようになって。だんだんと「やりたい」という気持ちが湧いてきて、競輪選手の道に進むことを決めました。
-周りの友達も含めて、企業に就職する人が多かったかなと思うんですけど、迷いはなかったんですか?
迷いは……あまりなかったかもしれません。トライアスロンを続けていく中で、ある時「この生活がなくなるのって考えられないな」と思ったんです。学校では教員になるために勉強していたので、スポーツをずっとし続けたいっていう気持ちを持ちながら、日々過ごしていました。そんな時に「競輪選手」のことを教えてもらって。お金を稼ぎながら自分でスポーツして活躍できるって、なんていい職業なんだ、自分にあってる!っと思ってからはもう迷いはなかったですね。
-子供のころからスポーツは好きだったんですか?
中学、高校の時は、バレーボール選手になりたいと思うくらいのめり込んでやっていました。バレーボール選手になる為の道筋を書いて、ノートに記録して将来設計までしていたんです。でもある時に、「あぁこれじゃ目指せない」ってその夢を諦めたんですよ。諦めたんですけど、プロになりたいっていう気持ちが心の中にはずっとあって。それが今に繋がっているなと思います。
選手になってからのギャップ
-実際になってみて、自分が想像していたのと何か違う部分はありましたか?
調べていたのである程度は想像していたんですけど、なってみて改めて競輪選手になるまでに色々とお金がかかるんだな、と思いました。競輪選手になるために通う競輪学校の費用は、選手になった後にレースの賞金で支払います。それが毎回のレースで5万円、月に合計15万円くらい引かれます。手元に残る金額を見て「これしか貰えないんだ」というギャップがありました。その返済が終わって「あぁ、やっと選手になれたな」と思いましたね。
-想像していたよりお金がかかったんですね。
そうですね、ほとんど自転車にかける経費とかで消耗しています。
上を目指すからにはそれだけの部品とか、自転車のセッティングとかも変えないといけないし。体のケアもそうですし。ほとんどが自転車の為に消えていく感じですかね。
-働き方のギャップってありましたか?
会社員の人だと定時に帰って同じ曜日に休みがあるっていうのが普通だと思うんですけど、選手は自分で休みを決めて、自分の体調も整えて、自分のライフスタイルをコントロールしていかないといけないので、そのあたりは難しい部分があるかなと思います。ただ、自分には合っている職業だなっていうふうに思いますね。決められたこと決まったようにやるよりは、充実してるなと感じます。
まりさんの日々のスケジュール
-1日のスケジュールを教えてください。
6時ぐらいに起きて、7時に家を出てそこから競輪所に向かって、8時半からトレーニングをします。昼休憩のときにストレッチなどで体を少し休めたら、午後はジムでトレーニングをして、20時くらいには自宅に帰ります。寝るのは22時くらいですね。
-早い時間に寝て早い時間い起きて、オンの日は1日中練習って感じなんですね。
そうですね。レースがあるときはその時間に合わせて若干変わります。午前にやるもの、「ナイター」といって4時半以降にやるもの、「ミッドナイト」といって9時以降にやるもの、3パターンありますね。
-ミッドナイトレースの時はどんなスケジュールになるんですか?
朝8時くらいにおきて、そこからゆっくりします。朝起きる時間をゆっくりにすると、リズムが崩れるので、いつもと大体同じくらいの時間に起きて朝ごはんをとるようにしています。そこから仮眠を取ったり、読書をしたり、お風呂に入ったり、かなりゆっくりしていますね。18時くらいから徐々に体を動かし始めて、21時からやっとレースに出る感じですね。レース自体は3日間なのですが4日間は拘束されます。この期間は宿舎に寝泊まりして、携帯も使えません。
-普通の日の練習日と午前と午後が逆転しているイメージですね。ミッドナイトレースは何時に終わるんですか?
女子のレースは大体、10時前くらいには終わります。でも全体のレースが終わるまで待ってないといけないので、11時半くらいになりますね。そこから宿舎に戻って、寝るのは1時半くらいになります。日によってスケジュールが変わるので、体調コントロールは本当に大事になってきますね。
-オフの日ってどんなように時間を使っていますか?
体8時くらいにはおきますね。午前中にマッサージに行って、午後は体をほぐすためのジムがあるので、そこに通っています。
-オフの日も体のメンテナンスのために費やしてるんですね。
完全にずーっと睡眠だけにしちゃうと、オフの次の日が辛くなっちゃうんですよ。
-僕たちの周りの同年代の女の子のオフの時間の使い方のイメージは買い物に行ったり、とかなんですけど、そういうのはいったりしないんですか?
時間があえば行ったりしますね。最近はそれより、銀行とか行って、将来の貯蓄の事を聞いたりとかしてます(笑)
競輪選手は個人事業主。年金も自分でやりくり。
-同年代の競輪選手の方の年収っていくらくらいなんですか?
一番上のトップの選手とかだと、3000万とかで、結構、差があります。大体、平均年収は600万くらいですね。
-皆さん引退した後とかの為に貯金とかってされてるんですか?
そうですね。競輪選手は個人事業主なので、厚生年金とかがないんです。なので最近小規模企業共済というのを始めました。毎月、5万ずつ積み立てて、退職した時にその積み立てたお金がちょっと上乗せで返ってくるんですよね。
– 所属しているけど、個人なんですね。
選手会には所属しているんですけど、経営とかは個人でやっています。
-選手会をやめるときにいわゆる「退職金」みたいなのがあると聞いたんですけど、それはあるんですか?
ありました、でも今年から無くなりました。前は選手会が賞金から退職金分を引いて積み立ててくれたのですが、各自でやるようになりました。
-自分のことは全部自分でやらないといけないんですね。
そうですね。ついこないだも銀行の積立貯金をはじめました。やっぱ将来お金は不安ですね。年金もどうなるかわかんないので、自分でいろいろと準備しています。
-お金に使い道について教えてください。
仕事にかけるお金が70%ぐらいを占めています。実家なので、生活費は一人暮らしの人よりかはかかってないと思います。実家にお金をいれてるのですが、それでも大分助けてもらっています。
-トレーニング代って、サプリ含めてあと何買ってるんですか?
ジムの契約料金がありますね。
-結構お金かかるんですか?
そうですね、2つ入ってるので。パーソナルトレーナーさんもお願いしてるので普通に使うよりはお金がかかっていますね。
できていない部分を克服したい。終わりがないから続けたい。
-今後のお話になるんですが。どのくらいまで選手を続けていきたいと思ってますか?
できることならずっと!
-50歳,60歳になっても?
続けていきたいと思います。
-それは楽しいとかってのがあるからってことですかね?何か目標があったりするんですか?
目標はあります。年末にある「グランプリ」という大きな大会に出て優勝するのが目標です。その為に今練習を頑張っているところです。
-もしそれを達成したら、引退する、というのは考えてないんですか?
自転車自体がすごい大好きっていう訳じゃないんですけど、できてない部分があるからそれを克服したいという気持ちがいつもあって。もっと早く漕ぐにはどうしたらいいんだとか、いろいろ考えて終わりが無いと思うんです。日々の積み重ねが結果に繋がったらすごい自信になるし、感動するんです。それが多分楽しいっていう感覚に繋がっているんだと思います。
体さえもてばずっとやっていきたいです。
競輪はこれからも人間がやり続ける
-ロボットとかAIが発達するとある一定の職種は影響をうけるといわれているのですが、競輪選手は影響をうけると思いますか?
いやー、一切考えたことなかったです。
スポーツってドーピングとかそうしたものは一切NGなので、たとえば体の一部に機械を入れたりとかしたらそれだけでもうだめで。
-選手自体には影響はない、といえますかね。
そうですね。選手ではなく、その周りには影響あるかな、と思います。ロボットがチケットの販売や事務作業をやってくれれば人件費が減って、もっと賞金が増えたりするかもしれないですね。
割に合わないって思うかもしれない、けど楽しい人生を選んでほしい
-同年代で就職などに迷っている人にむけてメッセージなどありますか?
自分の可能性を閉ざさないでほしいですね。
私の妹もこの間就職したんですけど、全然職が合わなくて。「どうしよう」ってずっと悩んでいます。自分に合ったものが一番長く続けられるし、やりがいも感じられると思うんですよ。その分、割に合わないって思うこともあるかもしれないんですけど…人生は楽しいと思います。その方が。自分が本当にやりたいことをぜひやっていてほしいと思いますね。