McGuffin(マクガフィン)

真っ暗闇になったからこそ、本気で命を賭けないとあかんなって(R-指定)

〝道具はいらない。必要なのは考える脳みそと喋ることができる体だけ。”そんな共通点を持つラッパーR-指定と落語家の月亭太遊、それぞれのフィールドで活躍する彼らが持つ、仕事へのこだわりとは?

R-指定:初めまして、よろしくお願いします。

太遊:よろしくお願いします。

太遊:R指定さんは高校くらいから活動されてるんですか?

R-指定:そうですね、人前でライブとかするようになったのは高校くらいからで、実は中学校2年くらいから歌詞を書いてたりはしてました。

太遊:ラッパーって名乗れるなって自分で思ったのは、どのタイミングなんですか?

R-指定:ラッパーって不思議なもんで、それこそ入門とかないんで、「俺ラッパーやねん」って言い出した日からラッパーで大丈夫なんですよ。

太遊:仮に、4歳くらいの子が突然「僕ラッパーだ」って言い出したら…

R-指定:その子はもうラッパーです(笑)

太遊:僕らの場合だったら、漫才師ならNSC、落語家ならだれだれの師匠のところに、入ったその日から芸人と名乗れる。プロかプロじゃないかが僕らの世界では重要で、その境界線はものすごいはっきりしてますね。

R-指定:僕が尊敬する大先輩のRHYMESTERっていうグループが『ザ・グレート・アマチュアリズム』っていう曲を出しているんですけど、その歌の中では自分らのことをド素人って言ってるんですよね。これこそラップの本質なんだと僕は思っていて。

太遊:本質とはどういうことですか?

R-指定:そもそも楽器も弾けない、楽譜も読めない、歌の正しい歌い方も知らない人達がレコードから拾った曲をつないでビートにしたところから始まったようなところがあって。曖昧さ、グレーな部分が、ラップの面白さだったり特徴だったりするんですよね。

太遊:洗練されてない、ということがむしろ本質なんですね。

R-指定:そうです、敷居も低いし、懐も大きい、だから色んなラップがあって面白いんです。

「最初は実家の農業を継ごうかな、って思ってたんです。」-太遊-

R-指定:太遊さんが落語家、芸事を生業にしようと思ったきっかけっていうのは?

太遊:高校を卒業してからずっと続けていたコンビの相方が突然辞める、と言ったのがきっかけですね。

R-指定:突然ですか、それはきついですね。

太遊:そうなんですよ。僕はもうどうしたらいいかわからなくなって。最初は実家の農業を継ごうかな、って思ってたんです。でも、その時に落語がすごい好きだったので「もし入門できたら、芸事続けよう」と思ってこの道に進みました。

R-指定:なんで落語聞いていたんですか?

太遊:漫才のネタの参考にしようと思って聞き始めたんです。自分のネタ作りに行き詰まったときに、「落語面白いよ」って教えてもらって。

R-指定:落語を漫才の参考に。

太遊:吉本にはゴングショーという厳しいオーディションがあるんです。漫才やってる最中に、不合格の音が鳴ったらネタやめてすぐ帰らないといけないっていう。

R-指定:それつらいですね。だって、最後のとこさえ見てくれれば大爆笑やのに、みたいな前で落とされることもあるんですもんね。

太遊:僕たちはネタは最後まで行くんですよ。お客さんもめちゃくちゃ笑ってくれていて、よし行った!と思ったら不合格の音鳴らされて。僕は「なんで落とすんですか、ウケてるじゃないすか!」って審査員の人に聞いたんです。そしたら、「一貫性がないねん君たちは。面白いけど、『こいつらと言えば○○漫才』って言えるようじゃないと売れないねん。」って言われてしまって。

R-指定:ずれた漫才とか、すれ違い漫才とか。

太遊:そうです。僕は結構ひねくれてるから、「やったら次の月もちゃうパターンでやったるわ、ちゃう笑いのシステムでやったるわ」って言って、毎回最後まで行ってウケるんですけど落とされるみたいなことを1年間ずっと続けてたんですよ。

R-指定:自分のスタイルは絶対に変えなかったんですね。

太遊:自分の得意パターンだったので。でも、やっぱり行き詰まるんですよね。そんなときに、桂枝雀師匠の『代書』という落語を見て、落語って古くさいって思ってたのに、めっちゃ笑ってしまったんですよ。落語って笑いのシステムがたくさん散りばめられていて、漫才は尺が短いから、1個のネタで1個の笑いの取り方しかないけど、落語はそうではなくて。これは漫才の参考になるぞ、と思って落語にはまっていったんですよね。

R-指定:それで太遊さんが自分の人生の岐路に立った時に、落語や、ってなったんですね。

太遊:そうですね、第二の人生落語に賭けてみようって思って、弟子入りしました。

「真っ暗闇になったからこそ、本気で命を賭けないとあかんなって」‐R-指定-

太遊: R指定さんも、ラップがお好きでその世界に入っていったわけですけど、この世界でやっていこうって覚悟を決めた瞬間って、どういうときだったんですか。

R-指定:僕は大学を除籍になった時ですね。

太遊:除籍、ですか?

R-指定:大学時代は、勉強もせずに音楽ばっかりやって毎日過ごしてました。3回生にもなって、学費も払えないし、退学しようかなーと思って学生課に行ったら「退学するんやったら、前期の分の学費だけ納めてください。それができないなら除籍という形になります」って言われて。除籍って登録抹消っていうことです。せっかく大学に来たのに、俺は高卒っていうことになるんですよね。

太遊:高校卒業してからこの人何してたのって周りに思われるかもしれないですね。

R-指定:ほんまそうで、世間的な肩書きがなんも無くなってしまったんです。そのときにやっと、「いよいよラップでやっていかなあかんな」って思ったんですよね。ラップをほんまに自分の生きる術にしていこうって意識を変えていって。で、その除籍された年の年末に、初めて全国で優勝できたんですよね。

太遊:まさかそんな理由で腹くくってるとは思わなかったです。

R-指定:もともとラップで食っていきたいなとは思ってたんですけど、いろんな退路があってそこまでの覚悟はできてなかったですね。完全に何もなくなって、真っ暗闇になったからこそ、本気で命を賭けないとあかんなって思いました。

太遊:なるほど。

R-指定:優勝賞金が100万円と、ちょっと呼ばれるライブで食いつなぐ生活を3年続けてました。めちゃくちゃ不安定で、まじでカイジみたいな生活でしたね。年末の1発勝つか負けるかで1年が決まるみたいな(笑)

太遊:さすがです(笑)

「開き直ったら自分の道が開けてきた」‐太遊 –

R-指定:漫才をやるときに毎回違う笑いの構造に変えたるわっていうこだわりは、若い頃から持ってたと思うんですけど。ネタをつくる上での落語家としてのこだわりっていうのはどんなものがありますか。

太遊:こだわり、というのとは違うかもしれないんですけど、一貫性のなさっていうのが僕の中でキーになっているかもしれないですね。

R-指定:オーディションの時にも絶対に曲げなかった姿勢ですね。

太遊:コンビ解散の原因のひとつでもあるんですけど(笑)でも、僕これしかできないので、もう個性やと思って開き直ってます。

R-指定:実は僕も、ラップを志したときに、太遊さんと似ている部分があって。僕らが始めた頃は全員ラッパーってキャラ立ちがものすごいあったんですよ。声聞いただけで誰かわかる。あ、これRINOさん、これTWIGYさんって。そのぐらいまず声が特徴的で。ラップ志したときに、「あ、俺の声普通…」って思ったんですよね。

太遊:そうですかね、バトル見てたらRさんって感じするんですけどね。

R-指定:俺は高くもないし低くもないんです。高校のときに出会ったのがKOPERUやったんで。あいつはもう声聞いたら「KOPERUの声!」ってわかるやないですか。
太遊:キャラクターとか生き様とかで、一貫したメッセージを、説得力ある形で歌う人も多いですよね。

R-指定:そうなんですよ、「THE 俺」っていうのは無いなって思ってしまったんですよね。特殊な人生を歩んできたわけでもないし、声に特徴があるわけでもない。ずっと悩んでたんすよ、高校生のときから結構最近まで。でも、ある瞬間に、全部それを正直に曲の中でも言ってしまおうと思って、いろんなスタイルのラッパーの人のやり方を模した曲をつくったりとかしたんですよね。

太遊:それが『みんな違ってみんないい』なんですね。

R-指定:そう、いろんなパターンができるっていうことをやってしまおうと。俺には歌うべき特別なことはあまりない、特別な人生を歩んできてないってことを歌にしよう、みたいな。だから、太遊さんと同じように開き直って全部やったろかって。

太遊:すごくわかります。開き直ったら自分の道が開けてきた、というか。

「落語は人間の業の肯定」‐太遊 –

太遊:R-指定さんが命を賭けてまでやろうと思ったラップの面白さ、魅力ってなんですかね?

R-指定:曖昧さやったり、良い意味でいい加減なところがラップの中で一番好きなところですね。誰でも興味持ってやりたいって言ったらすぐにできるんですよ。機材も、特別な訓練もいらんし、定義もあるようでない。韻を踏まないラップがあっても全然いいし。

太遊:かなり自由ですね。

R-指定:いい加減でいいとこですね(笑)あと、音程が取れないへたでもよくて。歌ってるやつの人間性がにじみ出れば出るほど、いいラップやなってなるんです。

太遊:その人そのままを表現していいんですね。

R-指定:僕が落語とラップは通じると勝手に思ってるところが、立川談志さんが本とかで「落語は人間の業の肯定」って言ってはるのを聞いたときに、めっちゃヒップホップやんって思ったんです。アメリカの貧困層の人が、薬物を売りさばく犯罪に手を染めて、でもそういう犯罪ばっかやってる俺が、この犯罪ばっかりな地区から、こんな生活から抜け出すためにラップで頑張ってるんや、とか歌ってるんですよ。

語弊があるかもしれないんですけど、結構ラッパーって、不良のやつでも不良じゃないやつでも、ダメ人間ばっかりなんですよ。きちんとした人もおるんですけど、どっかにダメ人間な心があるんですよね。

太遊:いまその言葉聞けて嬉しくて。ていうのは、落語の中に出てくる登場人物も、基本的にダメ人間なんですよね。それこそストリートって言ってもいいぐらいの街の風景を描いてるから、ダメ人間だらけやし、それを聞いたときに自分も解放されるというか、「自分もダメな部分があっていいんや」っていう。そこがまさに、談志師匠のおっしゃる「業の肯定」になってくるんだと思うし。だから僕もラップやヒップホップが好きなんやと思いますね。

R-指定:20代の僕が言うのも変な話なんですが、いま僕が26歳で太遊さんが33歳で、20代と30代ってたぶん決定的に10年間の過ごし方が違うと思うんですけど。いま30代前半で、ここから40代に向けてどう生きていこうとか、挑戦したいこととかありま
すか。

太遊:落語に触れたことない人に見てもらおうって動きは相変わらず続けていこうと思っています。落語家で新ネタをどんどん作るっていうのはなかなかいないんですけど、今は週1で作っていて年末には毎日30日間やってみようと思っていて、さらにその先は、より即興の方に近づけていけたらいいなって思ってて。これも談志師匠の言葉だったと思うんですけど、イリュージョンみたいなことがひとつの理想って言ってて。イリュージョンっていうのは、全然関係ない言葉を持ってきてネタにしたりとか、新たな意味を生んでいくっていうことをしていきたいですね。

R-指定:談志さんの「芝浜」を最初に見たとき、それこそイリュージョンだなって思いましたね。僕が見たのは、最初すっごいだるそうに出てきて、「大丈夫かなこのおじいちゃん」とか思いながら見てて。談志さんがゆっくりゆっくりしゃべっていくうちに噺になってて、そのまま惹きこまれてて、あれ?俺めっちゃ泣いてるみたいな。ほんまにすごい落語されるなって思いました。

太遊:ほぼ素みたいな状態からお噺の世界に惹きこんで、感動させるとこまで持っていくっていうのはすごい芸の力ですよね。

R-指定:何かと比較できないくらいすごいなと思いました。

太遊:僕なんて足元にも及ばないんですけど、そういうすごい落語家さんって実はまだ関西とか東京にもたくさんおられるんですよ。若い人にほんとにもっと見てほしいなとも思います。

R-指定:俺は落語はかっこいいものとして聞いてるんですね。看一っていう米朝さんの噺の下げがかっこよすぎて。「中もピン」の言い方もかっこいい。ライブやったらピューンピューンって音鳴らして煽ってもいいくらいかっこいい表情と間で。落語かっこいいなって思うんですよね。面白いしかっこいい。

太遊:R-指定さんはいま20代じゃないですか。ある意味もう極めたというか、これから逆にどうなっていきたいんですか?

R-指定:いやまだまだ全然ですよ。自分の中ではもっと、極めたいなとは思いますね。僕将来的に、ほんまに落語も挑戦してみたいなっていうのも思ってて。やっぱ好きなんで。それこそKOPERUが寿限無やったみたいに。

太遊:すっごいよかったんですよ。ほんまにネタがKOPERUさんのフロウに合ってて。ラップをそのまま応用していい感じの落語になってたんで、すごい感動したし、やっぱり似てんねやって嬉しくなって。

R-指定:今度やってもらおうかなKOPERUに(笑) 僕もよく仲間内でも、「俺将来的に落語やってみたいねんな」って言ってて。ラッパーで落語やるようなやつが増えてきたら面白いなって。実はこのR指定っていう名前なんですけど、中学生のときにつけて。そんとき、R指定の定を、「亭」にしてたんですよね。最初っから全然落語とか知らんくせに(笑)途中でもとに戻したんですけど。

太遊:ぜひ落語やってください。落語のファンが増えるっていうのは絶対につながりますし。だってサイファーやってる少年たちがみんな落語に行くかもしれないじゃないですか。そうなったら俺が食いっぱぐれるから困るんですけど(笑)

R-指定:いやいや。でもそうなったときはぜひ稽古つけていただきたいです。

太遊:ぜひ一緒にやりたいですね。

<INFORMATION>
■R-指定

大阪府堺市出身のラッパー。
中1で日本語ラップと出会い、中2からリリックを書き始める。
高2で足を踏み入れた梅田サイファーの影響でバトルやライブ活動を開始する。日本最高峰のMCバトルULTIMATE MC BATTLE(以下UMB)大阪大会にて5連覇を成し遂げ、2012年、2013年、2014年の全国大会UMB GRAND CHAMPIONSHIPで優勝し全国3連覇を成し遂げる。
そして2014年、自身初となる1stアルバム【セカンドオピニオン】をリリースする。MCバトルの戦歴からは想像できないほど内向的で卑屈、HIP-HOPとはあまりにもかけ離れたバックボーンとパーソナリティー故に生まれた強烈な劣等感を創作/表現活動の源としている。
曲では幅広いトピックを扱い、独自の切り口から様々なアプローチを見せる。誰もが持つ負の感情を時には武器に、時には笑いに、時には哀愁にも変えてしまう多彩な歌詞世界が特徴。
DJ、トラックメイカー、ダンサーと様々な顔を持つ器用な同業者が多い中、ラップという表現一つで無数の表情を見せることができる希有な存在である。

Creepy Nuts
http://creepynuts.com/

■月亭太遊
大分県竹田市出身の落語家、お笑い芸人。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属

プロフィール
https://profile.yoshimoto.co.jp/talent/detail?id=5936

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